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Cohen and Tate ジャッカー

アメリカ映画 (1988)

ハーレイ・クロス(Harley Cross)が主演する心理的なサスペンス映画。登場人物は3人。そして、映画の90%以上は乗用車の車内。つまり、画面に大きな変化がほとんどない状態で、少数の登場人物が疑心暗鬼にさいなまれていく。しかも、その原因を意図的に作り出しているのが、誘拐されてきた9才の少年トラヴィス。そうかと言って、ホームアローンに代表されるように、コメディタッチで最初から少年が勝つことが分かっているようなイージーさは皆無で、相手は、老年のニヒルなプロの殺し屋と、若くてキレやすくトラヴィスを敵視している見習いの殺し屋の2人。この危険極まりない相手に、何とか生き残ろうとするトラヴィスの必死の行動が、たまたま味方していくだけで、先がどうなるかは映画を観ていても全く読めない。ハーレイ・クロスは、私が過去に見た少年俳優の中で、5本の指に入る名演を見せている。コメディではないので、表情に限りがあるはずなのだが、ハーレイの表情は微妙に、かつ、決然と変化し、実に様々な感情を的確に表現して見せる。そして、母と警備のFBI2人の3人を殺し、父を負傷させた極悪人を、心理的な、作戦なき作戦で、次第に追い詰めていく。そうした意味では、脚本も非常に冴えている。ハーレイ・クロスが主演した映画は、他には、12才の時の『The Boy Who Cried Bitch(やれよ、くそ女)』しかない(バリャドリッド国際映画祭で主演男優賞を獲得)。両方観た感想では、この映画の方が演技は自然で巧いと思う。

FBIの証人保護プログラムで、周辺に何もない田舎のど真ん中に隔離されている一家3人。警備にFBIの係官3人が付いている。実は、息子のトラヴィスが、テキサス州ヒューストンでマフィアの抗争を目撃したので、裁判があるまで一家全員が保護されているのだ。しかし、マフィアは老年だが30年の経験を持つプロの殺し屋(ロイ・シャイダー)と、見習いの若造(アダム・ボールドウィン)を殺害と拉致のため送り込む。FBIの係官1人が裏切り、電話線が切断され、トラヴィスが愛犬を追って家を飛び出した時、殺し屋2人が突入。ベテランはプロらしく小型拳銃で1発だけ撃ち、若造は体ごと吹っ飛ぶような大口径の銃を連射する。結局、家にいなかったトラヴィス以外全員を射殺。トラヴィスが戻って来たところを、拉致される。この襲撃の目的は、ヒューストンのマフィアのボスが、トラヴィスに何を見たか尋問するためで、尋問が済んだ後は殺される可哀想な境遇だ。トラヴィスが、高速道路を疾走する車の中で意識を取り戻してから、翌朝ヒューストに到着するまでの一晩の、密室空間での心理劇が、ここから始まる。最初から殺し屋2人の仲は良くない。プロの殺し屋コーエンは、暴力的なだけの未熟な若造と無理矢理組ませられたことに不満で、これが口にも行動にも現れている。そして、トラヴィスをヒューストンに生きたまま届ける契約を貫こうとする。一方、若く未経験なテイトは、コーエンから邪険に扱われて不満が鬱積、警察に捕まることへの怖れも加わり、トラヴィスに怒りを向け、殺してやりたくてたまらない。この2人の対立を、最初は偶然に、後には意図的にあおっていくトラヴィス。走行中の車からの脱出と再捕獲、警察の検問の強行突破、コーエンとテイトと抗争などを経て、傷だらけでヒューストンに到着したコーエンと、パトカーに追い詰められ「終わりだよ。あなたの負けだ」と投降を勧めるトラヴィス。そして、最後には、コーエンが、「9歳なのか。すごいもんだ」と言い残して、頭を打ち抜いて自決する。確かに、すごい少年だ。この映画は、いわゆる少年映画ではない。これほどハーレイ・クロスが活躍しているのに、犯罪映画の範疇に分類され、ほとんどの紹介にはハーレイ・クロスの名前さえ出てこない。しかし、2015年になって本国でブルーレイが発売されたということは、映画としては人気があるという証拠だ。

ハーレイ・クロスは、必ずしも「可愛い子役」という範疇には入らないかもしれないが、整った顔立ちであることは確か。この映画で、カメラは余す所なくハーレイの微妙な表情を捉えている。そして、拉致され、両親を殺されたと思い、涙にくれる9才の少年が、徐々に変身していく様を、実に見事に映像化している。それを支えているのは、ハーレイの見事が演技があったからで、これは監督の指示と言うよりは、本人の持つ個性であろう。それは、先に述べた『The Boy Who Cried Bitch(やれよ、くそ女)』での演技を見ればよく分かる。ハーレイの演技には、怖いほどのカリスマ性がある。あらすじでは、ハーレイの微妙な表情の変化を、普通よりは多くの画像を使って紹介している。なお、この映画には、英語字幕が存在しない。従って、日本語字幕とヒヤリングに頼るしかなく、訛のひどい英語なので、いつもほど台詞が正確でないことをお断りしておく。


あらすじ

FBIの証人保護プログラムで、犯罪の起きたテキサス州から遠く離れた場所に匿われている一家。周囲は見渡す限りの草原。誰かが来ればすぐに分かる。FBIの係官1名の監視下で、父とボールを投げ合うトラヴィス。ボールを取りながら(1枚目の写真)、「いつまで、ここにいるの?」と訊く。「あと少しだ」。「ホント?」。「そうだ」。「テキサスには いつ帰るの?」。「テキサスには戻らない」。それを聞いて、トラヴィスが顔を曇らせる。外にいる係官がそわそわと時計を見ている。実は彼はマフィアから金をもらい、もうすぐやってくる殺し屋を無視して、車で逃げ出してしまう。家に入った父が弁護士に電話をかけようとすると、電話が通じない。そして、さっきの係官が車で逃げていく。緊張する一家と、FBIの残った2人の係官。食前の祈りの言葉の最中に、異変に気付いた犬が飛び出していき、トラヴィスも後を追う。FBIの1人がトラヴィスの保護に向かい、父母と1名が家に残る。そこに突然現れた年輩の殺し屋コーエン。父に向けて拳銃を一発撃つ(2枚目の写真)。プロの殺し屋で百発百中を誇っているのに、写真から分かるように、弾は心臓から外れている。お陰で父は一命を取りとめることになる〔自信過剰の殺し屋は気付かない〕。一方、若いチンピラのテイトは、大口径の大型銃を連射し、FBIと母を惨殺する。これなら多少狙いが外れても、確実に死に至る。プロの殺し屋は、こういうやり方は、素人仕事だと苦々しく思っている。
  
  

犬を追って行ったトラヴィスは、家から聞こえた銃声を聞きハッとする(1枚目の写真)。そして、玄関から入って「パパ? ママ?」と声をかけたところで、肩に手がかかる(2枚目の写真)。後の状況から判断して、この時、トラヴィスは、父母を見る前に、殺し屋コーエンに首の後ろを叩かれて意識不明にさせられ(deleted sceneによる)、連れ去られた。
  
  

高速道路を、ヒューストンに向かってひた走る車の中で、若造テイトが、殺し屋コーエンに話しかけている。相手が格上の大先輩なので、丁寧な口調だ。「どこに行くんです?」。「終着地」。「質問に答えて下さいよ」。「黙ってろ」。「コーエンさん、教えて欲しい」。「2分ごとに、質問攻めか?」。「何でそんなに俺をバカにするんです?」。「お前が好きじゃないからだ」。「長旅なんだから、楽しくやりましょうや」。「今すぐ、口を閉じろ」。「仕事は、ちゃんとやりました」。「バカみたいに撃ちまくったろ? 母親とFBIなら2発で済むのに、血の池にしやがって。お前は低脳だ。俺と組める柄じゃない」。「なんで、俺と組んだんです?」。「組まされたんだ。仕方なくな。30年、一人でやってきた。ずっと勝手にやってきたのに、今度は、お前のお守りだ。この年じゃ、従うしかない。こんな仕事じゃ、退職したって社会保障もないし、金時計もくれんからな」。少し長いが、2人の関係と、殺し屋一筋の人間の末路が分かって面白いので全文紹介する。ここで、トラヴィスの意識が戻る。そして、泣きながら、「ママとパパを殺したの?」と訊く(1枚目の写真)。「残念だがな」。「僕も殺すの?」(2枚目の写真)。「ヒューストンで 話したがってる人達がいる」。「その人達が 僕を殺すの?」。「話したがってる」。「それから、殺すの?」(3枚目の写真)。切羽詰った質問だ。答えは残酷にも、「きっと、そうだ」。
  
  
  

殺されに行くと分かり、「僕を、元の場所に戻してよ」と言い出すトラヴィス。その時、テイトが運転席から振り向いて、「おいガキ、こいつを見ろ」と鋼鉄のナックルを見せる。「鼻にぶち込むと、骨で折れて脳ミソが潰れる。一発で昇天だ」(1枚目の写真)。大きく目を見開くトラヴィス(2枚目の写真)。グレーの瞳だ。コーエンが、テイトをなだめ、「まだ先は長い。350マイルある」と静かに言う。コーエンはあくまで冷静だ。フロントグラスにぶつかって潰れる虫を見て、「時速100マイルでぶつかるのって、どんな気分かな」と面白がるテイト。「頭の中はクソか」と突き放すコーエン。憮然とするテイト。そのやり取りを聴いていて、「警察に捕まるよ」とトラヴィスが口をはさむ。コーエン:「捕まらん」。テイト:「コーエンさん、黙らせましょうか?」。「必要ない」。「意識不明にしてやる」。ナックルで殴ろうとするのを止めるコーエン。ラジオをつけると、偶然、ニュースが飛び込んでくる。「警察によれば、凄惨な事件で3人が死亡、1人が負傷…」(3枚目の写真)。「負傷だと?」と驚愕するコーエン。自分が的を外したのだ。「女性は、医学関係者によれば 死亡が確認されました。男性は、生きており…」。トラヴィスが「パパだ!」と叫ぶ(4枚目の写真)。3人の座っている配置がよく分かる。先輩の失敗に腹を立てたテイトが無理にスピードを上げる。「減速しろ」。「最低の失敗だ!」。「あそこに 止めるんだ」。パーキング・エリアで、自分の失敗を悔やむコーエン。テイトの方は、「このじじい、腕が落ちたくせに、いばりくさって」と思っていることだろう。そこで、「奴を殺そう」と提案する。「誰を?」。「ガキだ。頭をふっ飛ばす」。「何をバカな。仕事を忘れたか?」。「コーエンさん、ガキがいると足手まといだ。俺達が逃げるには、いない方がいい」。「よく聞くんだテイト。我々は雇われてる。ガキを ヒューストンに届ける。それが契約だ。仕事はやり抜く。分かったか?」。
  
  
  
  

コーエンが運転を交代し、走行を開始。床に懐中電灯が転がっているのを見つけたトラヴィス。体をなるべく動かさないようにして拾い上げると、コーエンの後頭部を思い切り殴りつける(1枚目の写真)。実に思い切った行動だ。殴られたショックで1.5回転して停車する車。その瞬間、トラヴィスは後部ドアを開けて路上に逃げ出した。トラックが頻繁に通る高速道路を決死の思いで横断して逃げる(2・3枚目の写真)。CGのない時代なので、どうやって撮影したか分からないが、手に汗握るシーンだ。車が多いので、テイトも拳銃で撃つことができない。手をつかねている間に、トラヴィスは柵を乗り越え、道路外に逃げ出すことに成功する(4枚目の写真)。
  
  
  
  

トラヴィスは、近くにあった大型トラック専用の給油所まで歩いていき、そこでパトカーに保護される(1枚目の写真)。車内で、警官に向かって、涙ながらに「ママとパパを撃った」と話す。「誰が 撃ったんだ?」。「2人の男。1人はホントの年寄り。名前はコーエン。もう1人は若くて、名前はテイト」。「今、どこにいる?」。「知らないよ。逃げてきたんだ。知るハズないだろ」。警官は、すぐに無線で知らせ、トラヴィスが誘拐された子だと分かり、署まで送られることになる。しかし、パトカーが高速を走っていると、追い抜いていく車がある。そこには2人の殺し屋が。「あいつらだ、逃げて!!」と叫ぶトラヴィス。犯人の車はパトカーの後ろに付くが、危機感のない警官は、トラヴィスの「殺される! お願い、逃げて!!」という懇願(2枚目の写真)にも平然と運転を続ける。実は、その少し前、同じようにトラヴィスが叫び、間違っていたので、信用していなかったのだ。コーエンは運転しながら、窓から身を乗り出すと、1発で警官の後頭部を射抜く。運転者がいなくなって蛇行するパトカーを、助手席から手を伸ばし、死体を押しやって必死でハンドル操作するトラヴィス(3枚目の写真)。リア・ウィンドウに銃撃で開いた穴が見えている。コーエンはパトカーの前に回りこみ、リア・バンパーにぶつけさせて、減速・停車させる。パトカーから引きずり降ろされ、テイトに車内に連れ込まれたトラヴィスは、後手に手錠をかけて後部座席に放り込まれる。そして、怒りに燃えるテイトから、巨大な銃を鼻に押し付けられ、「おい、チビ助、ちょっとでも動いてみろ。一言でもしゃべるか、動いてみろ。銃に触ってもいい。すぐ殺してやる。分かったか?」と威嚇される(4枚目の写真)。「銃を下ろせ、テイト」とコーエンに言われても、銃を突きつけたまま、「バーン!」と言って脅す。コーエンも頭にきて、力づくで銃を下げさせる。
  
  
  
  

トラヴィスは、「警官が 無線で話してた。僕を確保したって。すぐ捕まるぞ」と割り込む(1枚目の写真)。テイトはまだ怒っているので、このタイミングでの発言は、ずいぶん危険な行為だ。テイト:「なあ、殺そうぜ」。コーエン:「殺さん」。「車を停めろよ。俺が素手でやる。首をひねればイチコロだ。死体は埋めて、逃げればいい」。2人の反応を見るトラヴィスの真剣な顔(2枚目の写真)。自分の命がかかっているので当然だろう。コーエンは、「二度と、警告せんぞ。生きたまま、ヒューストンに連れて行く。このままだと、どちらかが ケガをするかもな」。この言葉に、コーエンは、絶対に僕を守ってくれると確信したトラヴィスは、危険な賭けに出る。テイトに向かって、「そうだテイト、口を閉じてろ」と挑発したのだ。「何て言いやがった?」。嘲笑するように、「こうさ…」と言いかけるトラヴィス(3枚目の写真)。「もうよせ」とトラヴィスを諌めるコーエン。テイト:「このクソが、俺に言ったこと聞いたか?」。トラヴィス:「口を閉じてろ」。コーエン:「やめろ」。テイト:「黙らんか、このガキ!」。コーエン:「テイト」
  
  
  

怒りを紛らわそうと、テイトはマッチ箱を取り出し、箱に印刷されている文字を話題にしようと、コーエンに箱を見せようとする。しかし、コーエンは「見せるな」と相手にもしない。字を読もうと言っても、「読むな」。これでは、誰でも面白くないだろう。テイトは、ふてくされてマッチを全部口に入れて噛み始める。。異常な行動だ。このタイミングで、トラヴィスがコーエンに質問する。「コーエンさん。どんな人たちのトコに、連れて行くの?」。ちゃんと「さん」を付けて話す。「マフィアだ」。「僕 知らないよ」。「知らないだろうな」。「なぜ、僕と話したいの?」。「俺が言われたのは… 両親を消して、お前が何か知ってるから、連れ戻すこと」。「でも、僕 何も知らないよ」。「なら、そう言え」。テイトは、憎いチビに、内部情報まで教えてやるコーエンに不満だ。何もすることがないので、眠りたいと言うテイト。それを探るように見るトラヴィス(1枚目の写真)。テイトが鼾をかき始めると、トラヴィスが口を開く。「コーエンさん、彼 眠った?」(2枚目の写真)。「鼾がする」。「コーエンさん、彼 狂ってるよ」。コーエンは、「図にのるな」とトラヴィスを突き飛ばす。その音で目が覚めたテイト。「何が起きた?」。「何も」。すぐに、トラヴィスがテイトに “口”撃を仕掛ける。「パパは生きてて、警察に全部 話してる。僕を すぐ降ろした方がいいぞ」。「そう思うか?」。「そう思うよ」。頭にきて、「誰に向かって話してるか、忘れてるんじゃないか?」と怒鳴りつけるテイト。「銃を持った殺し屋だぞ! 殺してやる」「ナメやがって」。コーエン:「小さな子だぞ」。テイト:「腹の立つガキだ」。「放っとけ」。「このガキといると、無性に殺したくなる。一発 撃てば気が済むんだ」(3枚目の写真)。ここでさらに、トラヴィスが「オシッコ 行きたい」と言い出す。コーエン:「停めんぞ」。「出ちゃうよ」。「我慢してろ」。「ここで しちゃう」。テイト:「命令に従え。我慢してろ」。「あんたに かけてやる」(4枚目の写真)。こんなことを子供に言われれば、普通の大人なら怒るだろう。まして相手はテイトだ。
  
  
  
  

事態を収めようと、テイトにラジオをつけさせるコーエン。そこから流れてきたのは、警察が犯人2人とトラヴィスの特徴を公開して、大々的に捜査に乗り出したというニュース。「くそっ! 何てこった! チキショウ!」と焦るテイト。凶暴だが、気は小さい。2人も口論を冷めた目で計るように見るトラヴィス(1枚目の写真)。2人の犯人の間で、車の速度を巡って口論が起きる。「エンジンがイカレテ、こんなトコで立ち往生したらどうする?」と言うテイトを、コーエンが「テイト!」と一喝。そこに、トラヴィスが、「急いだほうがいい」と煽る。コーエン:「口出しするな」。「警官は、あんたたちの顔も車も知ってる」。「捕まるよ」(2枚目の写真)。テイトに鼻を殴られる。「何てガキだ」。そして、2人でまた口論。いつの間にか、前方に車の列ができている(3枚目の写真)。慌てて減速するコーエン。
  
  
  

それは、高速道路を遮断した警察の検問だった。前後を車列に阻まれ、どんどん警官が近づいてくる。トラヴィスを後部座席の隙間に寝かせ、上から布をかけて隠す。しかし、警官に運動靴が覗いているのが見つかる。すぐに銃を突きつけ(1枚目の写真)、拳銃を奪う。そして、車の動きに合わせ、検問場所に向かってゆっくりと歩かせる。検問所に近づき、他の警官に悟られると、今度は、トラヴィスの顔に銃を押し付け(2枚目の写真)、人質を殺すぞと脅し、残りの警官の銃、パトカー2台の鍵、無線のマイクを持って来させる。最後に、警官4人全員に手錠をはめさせ、一列に並ばせ、封鎖していたパトカーの間を通過する。数10メートル過ぎた所で停車すると、テイトが下車し、パトカーに向かって銃を乱射、炎上させる(3枚目の写真)。緊迫したシーンの連続だ。
  
  
  

コーエンは、車を替えようと考え、高速を出て脇道に入る。最初に来た車をテイトが停め、ナックルの一撃で運転者を殺し、古い車に死骸を乗せて野原に自走させ、新しい車にトラヴィスを押し込む。車を替えたことはいいが、乗り換えの際にテイトが持ち込んだはずの地図が見あたらない(1枚目の写真)。実は、うっかり後部座席に置いてしまい、それと知ったトラヴィスが、地図を隠すように横になり、手錠をかけられたままなので、口で地図を破っては飲み込んでいたのだ(2枚目の写真)。焦って精神的に不安定になるテイト。「道は、誰かに訊くから、パニックになるな」と注意するコーエン。「パニック」という言葉に過剰に反応し、「俺がクソ・パニックなんかになるか!」と、天井を叩いて罵りまくるテイト。こうなると、半分、精神異常だ。「道は、誰かに訊けばいい。ガソリンスタンド、農家、コンビニ… 簡単だろ」と鎮めるコーエン。それでも、ブツブツ言い続けるテイト。不気味な存在だ。コーエンもそう思い始めている。
  
  

コーエンが、ガソリンスタンドの脇に車を停め、場所を訊きに行く。車内では、テイトと2人きり。そんな時、さっき飲み込んだ地図が食道に詰まり、咳き込むトラヴィス。思わず、口から断片を吐き出す(1枚目の写真)。それを見たテイトが、トラヴィスの首をつかみ、「今、口から何を出した? ありゃ何だ?」と詰問する。「出しやがれ!」「このクソガキ、鼻をもぎ取ってやろうか」(2枚目の写真)。その時、コーエンがテイトのこめかみに銃をつきつける。そして、車外に出させ、鼻に銃をあてたまま、「何してる?」と訊く。「ムキになるなよ、コーエンさん」。「頭を ぶち抜くぞ」「ガキを殺そうとしたな、低脳のクソ野郎」「引き金を引くだけで、ヒューストンまで気持ちよくドライブができる」(3枚目の写真)。テイトの必死の詫びを容れて許してやるが、コーエンがテイトに強い危機感を抱いたことは間違いない。
  
  
  

車を出す前に、トラヴィスが再び、「コーエンさん、オシッコに行きたい」と言い出す。今度は停車中なので、ガソリンスタンドのトイレに連れて行く。トラヴィスの目的はトイレではなく、コーエンを説得することだった。「コーエンさん。テイトは あなたを殺す気だ」。「黙れ」。「聞いてよ。あいつは、僕を殺せば、あなたも殺さないといけないって、覚悟してる」(1枚目の写真)。そして、決定的な言葉を放つ。「あいつを殺してよ、コーエンさん」(2枚目の写真)。9才の少年から出た、すごい言葉だ。しかし、言下に否定せず、その言葉に考え込むコーエン。かくして、疑惑の種は、しっかりと根付いた。
  
  

再び高速に乗り、単調な車の運転が続く。後部座席では、トラヴィスが、ウトウトしながら『ゆかいな牧場(Old MacDonald Had A Farm)』を口ずさんでいる(1枚目の写真)。「♪イーアイ、イーアイ、オー」をくり返す単調な歌詞だ。コーエンの眠気を誘うためにワザと歌っているわけではないが、その歌で、コーエンが半分眠ってしまったことは確か。その時、テイトの銃がコーエンの頭部に向けられるく(2枚目の写真)。高速運転の運転手を撃てば転覆の恐れがあるので、撃つ積りはなかったと思うが、これまでの恨みつらみを、居眠り中のコーエンにぶつけたかったのだろう〔トラヴィスも欠伸をして半分寝ていた〕。しかし、寝ぼけまなこでそれに気付いたトラヴィスは(3枚目の写真)、「起きて、コーエンさん、殺される!」と叫ぶ(4枚目の写真)。必死で否定するテイト。「僕ら2人とも 殺す気だ」と必死に訴えるトラヴィス(5枚面の写真)。トラヴィスを口止めしようと飛びかかるテイトを、止めるコーエン。
  
  
  
  
  

コーエンに止められたため、怒り心頭で、「脳ミソを座席にぶちまけてやるぞ、クソガキ」と毒づくテイト。これに対し、放ったトラヴィスの一矢がすごい。侮蔑を込めて「Pussy」と言ったのだ」(1枚目の写真)。いろいろな意味にとれるが、「ま○こ」「弱虫」「カス」等々、最大の侮辱であることは確か。猛然と飛びかかるテイトと、「いい加減に やめんか!」と押し戻すコーエン。ここで、車は高速を降りる。あまりの悔しさに泣き出すテイト。被害妄想からか異様な目でコーエンを睨む(2枚目の写真)。その様子をうかがっていたトラヴィスが、もう一段、決定的な行動に出る。「おい、テイト」と呼び捨てると、顔に向かってツバを吐きかけたのだ(3枚目の写真)。テイトが「殺す(You’re dead.)」と振り向いたところを、コーエンが「終わりだ(That’s it)」と言い、射殺する。反動で車からふり落とされるテイト(4枚目の写真)。コーエンは車を停め、テイトの死体をトランクに入れる。その間、トラヴィスは、逃げないようハンドルに手錠で縛られる。
  
  
  
  

コーエンが再び運転を始める。トラヴィスに、テイトは未熟者だから怖くなって逃げたことにする、と話しかける。ボスに訊かれた時の口裏合わせだ。ところが、今まで味方だったトラヴィスは、「話しちゃうから」と言う(1枚目の写真)。「誰に?」。「彼らだよ。あんたが、僕を連れてく」「あんたと、あいつを雇った人たち」。「何て 話す?」。「あんたが あいつを殺したって」。無言のコーエン。連れて行かれれば殺されるので、トラヴィスの方も必死なのだ。それにしても、トラヴィスは怖いくらい冷静だ。途中、給油に寄ったスタンドで、トラヴィスが目線で送ったSOSと(2枚目の写真)、トランクから滴り落ちるテイトの血に気付いた店員を、コーエンが撃ち殺す。そして再び高速に。トラヴィスが何か言い始めると、邪魔だとばかり口に粘着テープを貼る(3枚目の写真)。その途端、タイヤがパンク。コーエンはすぐ道路を出て〔有料ではないので、どこでも出られる〕、パンク修理のできる明かりを目指し、近くの石油汲み上げ場に向かう。コーエンは車を停め、手錠をハンドルにかけてトラヴィスが逃げないようにしておき(4枚目の写真)、車を降りる。
  
  
  
  

コーエンが、ジャッキを出そうとトランクを開けると、いきなりテイトが飛び掛ってきて、昏倒させられる(1枚目の写真)。テイトは、防弾チョッキを着ていたので命に別状はなく、さっきは車から落ちて気を失ったのだ。トランクが閉まると、トラヴィスの目には、怒りに燃えるテイトの姿が。ハンドルから離れられないので、トラヴィスは必死で4つのドアをロックする。テイトが窓を割って手を突っ込むが、トラヴィスは、エンジンをかけて、車をゆっくりと動かす〔パンクしている〕。テイトは、脚を怪我しているので、次第に車から引き離されていく(2枚目の写真)。まさに危機一髪だった。そこに、意識を取り戻したコーエンがやってくる。「奴を見たか?」。首を振るトラヴィス。コーエンがパンクを修理している間に、トラヴィスは手首にツバを塗って手錠から抜け出す。実にはしこい少年だ。気付いたコーエンが捜しに行き、結局は捕まる。車に戻る途中でテイトから銃撃されたと思い、銃を構えるコーエン。防御の姿勢が決まっている(3枚目の写真)。
  
  
  

その時、トラヴィスが叫んでいるらしいことに気付く(1枚目の写真)。しかし、声がほとんど聞こえない。悲しいことに、高齢のため、補聴器を付けていて、それがさっきのカッコいい動作で落ちてしまったのだ。「あれがないと聞こえん」「何してる! 捜すんだ!」とトラヴィスを叱咤するが(2枚目の写真)、最後には「助けてくれ」と頼む。それに対し、目をじっと見て、見つけておいた補聴器を渡すトラヴィス(3枚目の写真)。「ありがとう」。一種の不思議な信頼関係だ。車に戻りかける2人。その時、テイトが目の前に現われ、コーエンの左肩を撃ち砕く。コーエンは地面に転倒、手錠でつながれたトラヴィスは逃げられない。びっこをひきながら近づくテイト。「コーエンさん 起きて!」と叫ぶトラヴィス(4枚目の写真)。両手でコーエンを引っ張るトラヴィスに、テイトの銃が向けられる。絶体絶命のピンチだ。その瞬間、倒れていたコーエンが満を持して体を起こし、テイトを撃ち殺す(5枚目の写真)。
  
  
  
  
  

肩を砕かれたコーエンは、何とか車を運転し、ヒュートン市内に到着する。相当の重傷で、やっとの思いで運転できている状態だ。上空を飛ぶヘリにも見つかり、停車を命令される。トラヴィスは、「終わりだよ。あなたの負けだ」「停まって。お願い」と説得する(1枚目の写真)。それに対し、トラヴィスの額に銃を突きつけるコーエン。「撃たないくせに」。「なんで、そう確信できる?」。「あなたのこと、分かってるから」(2枚目の写真)。そのまま市内に向かうコーエン。高速からの出口のランプが2台のパトカーで閉鎖されている。「つまかれ」と、トラヴィスを抱えたまま、そこに突っ込んでいくコーエン。車は大破したが、何とか突破できた(3枚目の写真)。
  
  
  

しかし、大破した車はすぐにエンスト。大量のパトカーが押し寄せてきて、銃を構えた警官に周囲を取り囲まれる。人質トラヴィスの首に銃を突きつけたまま、コーエンは、「何歳だ?」と訊く。「9歳」(1枚目の写真)。「9歳か」「すごいもんだ(How about that)」、と言い残すと、コーエンは拳銃を自分の喉に押し当て、引き金を引く(2枚目の写真)。壮絶な最後だ。
  
  

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